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第8話

だが、この件について霧島弥生は詳しく知らなかった。

あの時、彼女も川に落ちたらしく、高熱を出し大病を患い、目覚めると以前の多くのことをほとんど忘れてしまい、自分がどのように川に落ちたのかさえ覚えていなかった。

同級生の話では、彼女が遊ぶ心が強くて、注意力に欠けていたから水に落ちたそうだ。

霧島弥生自身はずっと何かを忘れてしまった気がしていたが、どうしても思い出せなかった。その後も歳月が過ぎて、当時の出来事をはっきりと覚えている者はほとんどいなくなった。

宮崎瑛介が命を救った人にこんなに執着するなんて思ってもいなかった。

もしあの時、飛び込んだのが自分だったらよかったのに。

夢の中の彼女の感情は、今の霧島弥生と融合したかのようだ。

心は巨石が圧えられているように重く不快を感じ、頭痛はさらに耐え難い。なぜあの時飛び込んだのは自分ではなかったのだろうか?

もし……もし……

突然、宮崎瑛介の顔が目の前に現れた。その目は冷たく、無情である。「弥生、子供をおろして」

すぐに彼のそばには江口奈々が現れ、彼女は蔓のように宮崎瑛介に依存していた。

「弥生、子供をおろさないって、私たちの関係を破壊したいの?」

破壊という言葉を聞いて、宮崎瑛介の目はさらに冷たくなり、彼は数歩進み出て霧島弥生の顎をつかんだ。「言う通りにしろ。さもなければ手を出すぞ」

彼の手の力はあまりにも強く、霧島弥生の顎が砕け散るほどだった。

霧島弥生は抵抗して、突然目が覚めると、全身が冷汗に濡れていた。

目に見えるのは、窓の外を後ずさりする道だった。

さっきのは……夢だったのか?

どうしてそんなにリアルだったんだろう……

霧島弥生はため息をついた。

「弥生、目が覚めたんだ」優しい声が前から聞こえて、霧島弥生は目を上げた。江口奈々の心配そうな顔が見えた。「よかった、何かあったかと心配してたわ」

江口奈々?彼女がなぜここにいる?

すぐに霧島弥生は気づいて、彼女のそばに目を向けた。

確かに、車を運転していたのは宮崎瑛介で、江口奈々は助手席に座っていた。

宮崎瑛介は運転をしながら、彼女が目覚めたのを知り、ただ後ろ鏡を通じて彼女を一瞥した。

「目が覚めたのか?まだどこか気分が悪いか?すぐに病院に着くから、医者に診てもらおう」

霧島弥生は悪夢で心臓を高鳴らせ、少し落ち着いたはずの心臓が、宮崎瑛介のその言葉でまた緊張し始めた。

「いえ、病院には行かなくていい。大丈夫なの」

そう言われた宮崎瑛介はまた彼女を一瞥した。

「何だそれ?熱が出ているのを知らないのか?」

江口奈々も同意した。「そうよ弥生、すごい熱なんだから、病院に行かなくちゃ。昨夜、雨に濡れたんだって?一体どうしたの?」

どうしたのって?

目の前の江口奈々を見ながら、霧島弥生の青ざめた唇が動いたが、結局何も言えなかった。

昨日のあの騒動は、江口奈々も間違いなくその場にいたはずだった。

彼女がそう問うのは、何かを暗示しているのか?

考えているうちに、江口奈々は心配しそうな表情を浮かべて、申し訳なさそうに霧島弥生を見つめた。「もしかして昨日のことで……」

宮崎瑛介は江口奈々の言葉を遮り、穏やかな声で言った。「とにかく病院に行こう。これから数日は安静にして、会社には行かなくてもいいから」

江口奈々は言葉が遮られたので、少し驚いて宮崎瑛介を見た。

霧島弥生は目を伏せ、美しい瞳の奥には深い冷たさが潜んだ。

こんなに守ってあげるなんて、流石彼が心の底に居る女だ。

しばらくすると、彼女は頭を上げて、「病院には行かない」と再び言った。

宮崎瑛介は眉をひそめ、彼女が今日は特にわがままであると感じた。

「病気なのに病院に行かないって、どういうつもりだ?」

霧島弥生は唇をとがらせて言った。「自分の身体のことはは自分がよく知っているわ」

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